退屈な授業、昼飯食ったばかりだから余計にダルイ。


ふと、目の前のお前の背中を見ながらノートの隅に
マンガチックにお前の似顔絵を描いてみた


自画自賛するほどの出来栄えにほくそ笑みながら
その絵の脇に小さなハートを書き足してみたりして。


我ながらちょっとイタイと、そのハートをグチャグチャに消して
その代わりに矢印を書いてそこに『ブス』と書き直した










ホントの気持ち










「ノート提出」と突然の教師の言葉に平古場凛は慌てた

「ヤベェ、ケシゴムがないさー」



チャンスとばかりに前の席のの背中をケシゴムを貸してもらう為につつく。
すると、は俺に貸すために当然のように後ろを振り向く



しまった、ノートにはコイツの似顔絵が…



無駄な抵抗かと思うが平古場は教科書でそれをそっと隠した
一瞬が笑ったような気がしたが、とりあえず芸術的な絵を消した



「ねぇ平古場、さっきの誰?」



放課後、部活に行く支度をしているとが不意に声を掛けてきた
の言う「さっきの誰?」というのは紛れもなくノートに描いたあの絵の事だ。



やっぱり見ちまったのかよ…


さすがに「お前だよ」とは言えず、「お前の知っているヤツ」と言葉を濁した
するとは「ふぅん」と俺の顔を覗き込むように見ると
「私じゃない事は確かだよね」と断言するように言った



「お前かもしれないさー」

「いや、それは絶対ないね」

「何でだよ」

「だってブスって書いてあったじゃん」



うげぇ…そこまでしっかり見てたのかよ
コイツの視力ってアフリカサバンナの原住民並みだな


こんな事ならハートマークを残しておけばよかったかもな




「図々しいヤツ」なんての頭をラケットで軽く叩き、教室を出る前に
「アレ、お前だったりするんだよなー」とラケットを翳したら
アイツは大きな声で俺の名前を叫んだ

逃げるように走り出すと、後ろから叫ぶアイツの声が響いて何だか嬉しかった


やっぱり俺ってイタイかも…な










「イテェ」



“ブス”なんて書いたからバチが当たったのか?

情けない事に練習中に足を痛めてしまった



「どうやら軽い捻挫のようですね…集中力に欠けているからですよ」

「だ、大丈夫さー」




木手永四郎の眼鏡の奥の瞳がキラリと光る。そして、それが溜息に変わると
「今日はもう帰りなさいよ」と言ってくれた


一応「大した事ない」をアピールしてみたが
「ゴーヤを食べさせますよ」の言葉に素直に帰ることにした






足は少し痛かったけど真っ直ぐに帰る気がしなくて近くの海岸へ下りた



砂浜に寝転がって耳にイヤホンを当てると大好きなユーロビートが流れる
潮の香りと流れる雲を閉じた目で感じながら組んだ足でリズムをとると
まさしく“エクスタシー”さー。


そんな快感に浸っていたら、いきなりイヤホンの片方を引き抜かれた



「誰だー?邪魔ーすな、今いいとこなんだからよ」



無愛想に言って、片目だけ開けてイヤホンを引き抜かれた方を見ると
がそこにしゃがみ込んで俺の顔を覗き込んでいた



「!!!」



そりゃあもう瞬時に足の痛みなんて忘れたさー




「な、何でお前がここにいるんだよ」



はその問いに答えず、「足…怪我したんだって?大丈夫?」と
心配してくれているようだった



ははは、そりゃあ驚いたさー
耳の奥で「大丈夫?」が片耳から聴こえてくるユーロビートに合わせて
リピートしているくらいだからよー


いつものなら『バカ』とか『アホ』とか、そんな言葉が飛び出してくるのによー


目が点になっている状態で呆然としていると「聞いてる?」と
俺の目の前で手をヒラヒラと振った



「あ…な、なんくる……」



なんくるないさーって答えようと思ったけど、俺は途中でそれを止めた
滅多にお目にかかれないアイツの心配そうな顔。
それが俺に向けられているものなら尚更嬉しくて、わざと『痛い』を連呼した


「イテェ、すげー痛い!」ってな。



するとは「その痛めた足でリズムをとってなかったっけ?」と
呆れたように笑って俺の足を軽く叩いた


ホント、お前ってよく見てるよなぁ



その瞳に映るのが俺だけだったらいいのになー、なんて考えていたら
「送ってあげるよ」とは笑った



これってもう少し二人でいられるってことだよな?



OH!捻挫万歳!!
神様の粋な計らいに俺は感謝したさー








えっ!?自転車?そりゃ反則だべ。


自転車じゃあっという間に家に着いちゃうぞ
いやいや、二人乗りというシチュエーションはオイシイしなー。



「何やってんの?早く乗りなよ」



気がつくとは自転車に跨って俺が乗るのを待っている


「うぉっと…はいはい」なんて少し裏返った声で慌てて返事して
躊躇しながらも恍けたフリをした荷台に跨った



「行くよ」の合図で俺はの腰にしがみつくように腕を回した


思っているより細い腰に「コイツも女なんだ」と妙にドキドキしてくる
それなのには平然と「しっかり掴まってなよね」と言う。

コイツにとっては何でもないことなんだろうか?


が今どんな顔をしているんだろうって、後ろからそっと覗きこんでみた
すると、心なしかの頬が染まっていた


これってもしかして…?
いやいや、必死で自転車を漕いでいるから赤いだけ…か?






「なー

「なに?」

「お前、俺のこと好きだろー?」




半分本気、半分冗談、そんなつもりで聞いてみた
の事だから「バカ言ってんじゃねーよ」なんて返ってくると思っていた
それならそれで俺も「冗談さー」って言えたのに…



キキッと急ブレーキをかけて自転車が止まった




は振り向く事もなく、大きく深呼吸を一つして「うん」と答えた




初めて知ったのホントの気持ちに俺は胸が高鳴った
ダンスミュージックに合わせて踊り出したい気分。


だけど、俺は自分のホントの気持ちは言えずにいた
それでも火照った顔に当たる風が心地良かった




それからは一言も喋る事はなく俺を家まで送り届けてくれた








10日後、捻挫をした足が完治した



ー、今日は俺が送るさー」

「何で?」

「この間のお礼…」

「ふぅん」






この前と違って今日はの腕が俺の腰に回っている
背中に感じる柔らかいものにドキドキしながら俺は考えていた



どうやって俺のホントの気持ちを伝えようかと…






だから今日は少し遠回りして帰ろう

お前にホントの気持ちを伝えるために。















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KURUMIは沖縄の方言が全く分かりません。
沖縄の方言で喋っているのだと思って読んでください。