なんや、アイツまだ来てへんの?また遅刻かいな…


しゃあないな、迎えに行ってやるか


王子は姫さんを迎えに行くもんや


せやろ?










Come Together










うっわ〜〜、門が閉まるまであと30秒。

校門の辺りでやたら声援が飛び交っている


悪いけど今はそれどころじゃないのよと
は息を切らしながら猛ダッシュで走り込む。

しかし、あと一歩でセーフというところでは思わず足を止めた



「マイハニー、カムトゥゲザーやで〜〜〜♪」





白石蔵ノ介、テニス部キャプテン。それなりに人気有り。
そいつが、校門のところで両手を広げ跪いている



げっ、あのバカ何をしてんだよっ!!




「さあ俺の胸に飛び込んでおいで〜〜」




言うまでもなくギャラリーは白石を囲んで期待に満ちた顔で私を見ている

どないせい言うんじゃ!!



しかし身体は無条件で反応していく




「白石ィイイイイイーーーーッッ!!」





は徐に鞄からハリセンを取り出し、それを白石の顔面に叩きつけた
すると白石は「んんーっ、エクスタスィ〜〜!!」と絶叫しながら倒れ込んだ


ハイ、それはもう皆さんに満足して頂けたようで…



「白石、、朝からえぇもん見せてもろたわ」と先生にまで褒められ、
遅刻もなかったことにしてくれたわよ




「いやぁ、、今朝も良かったでぇ」

「……」




お黙り白石、今はアンタと喋りたくない


そりゃあね、いつも遅刻をしている私が悪いと分かっているわよ。
遅刻を逃れる手段としては最適だとも分かっている


通称「掴みの門」とも呼ばれる校門を突破するにはこれしかないということも…
でも、さすがに最近は素直に遅刻した方がいいような気がしてきた



「さすがやなぁ、ハリセンまで用意しとったとは…やっぱり俺の相方や」

「白石の相方になった憶えはないけど。」

「またまた〜、照れるところがまたカワイイやっちゃ。
 せやけど、そのハリセンはどうしたんや?」

「ユウジに作ってもらった」

「うん、さすがユウジや、センスがええなぁ
 あ、今の分かったか?センスと扇子をかけたんやで」

「…あぁ、そう」



これはハリセンなんだけどっ!ここでセンスと扇子をかけた意味がわかんねぇよ




「お、よく見たらこのハリセン蔵ノ介専用って書いてあるわ…
 あかんなぁ…、ここは蔵ノ介命って書くところやろ」




もうどうでもいい。

適当に「そうですね」と相槌を打っては教室に向かった
白石とクラスが違う事に胸を撫で下ろしながら…





教室に入ると同じクラスの小春がニコニコしながら声を掛けてきた


「今日の夫婦漫才も良かったわよ〜、ちゃんスキルが上がったんじゃない?」



うぜぇ…、お笑いのスキルなんて上がらんでもええっちゅうねん。




そもそも私は白石の顔に惚れた。…我ながら安易だったと思う
でも、テニスをしている時の白石はカッコイイのよ。


まさか、そんな白石に告られるとは思っていなかったから
「お前が好きや、付き合うてくれ」などと言われ一も二もなく承諾した。



最初は一緒にいるだけで楽しいと思っていた
「いつでもどこでも俺と一緒にいたってな」なんて調子のいいこと言って
気がつけば漫才の相方として周りだけでなく先生たちにまで認められていた


嬉しくないっつーのっ!!


誰か恋愛として認めてくれるやつはいねーの!?








「小春、白石のあの性格なんとかならない?」

「無理じゃない?」

「そんな身も蓋もない言い方しないでよ」



すると、小春は真顔で言う。
「白石があの顔で愛してるとか囁いたらちゃんはどう思う?」

「引く」

「でしょ?だから白石はあれでいいのよ、うふっ、分かった?」




わかんねぇよ

別に白石に「愛してる」なんて言って欲しい訳じゃない

普通に、極フツーに人並みのデートとかしたいだけ


そういうことを望んじゃダメなのかなぁ!?








休み時間に廊下から声を掛けてくる白石に思わず溜息が漏れる
そんな私の気持ちを知ってか知らずか、いつもの調子でずかずかと教室に入ってきた




、休み時間やで」

「だから?」

「トイレ行こう、ト・イ・レ」

「なんで白石とトイレに行かなくちゃいけないのよ」

「それは俺とは一心同体やし、ここは仲良うツレションや」




バッチーン!!!




強烈な音が教室に響き渡り、みんなの視線が一斉にこちらに注がれた

言わずと知れたのハリセン攻撃に歓喜の声が上がる




「アタタタ、今日はハードやなぁ」




信じられないよ
何が悲しくてツレションなんかしなくちゃならないのよ


白石って絶対私の事女の子として見ていない


分かってる?私怒っているんだよ?それなのにヘラヘラして誤魔化して…



白石を好きになった事、後悔させないでよ






無言で席を立ち、教室を後にしようとするを引きとめた白石だが
は冷たく「サイナラ」と彼の手を払いのけ出て行った










午後の授業はサボった。


屋上に上がって空を眺めていたら、
ゆっくり流れる雲間に飛行機が飛んでいるのが見えた




抱えている苛立ちを白石に当たった自分に少し後悔した
白石はあれでいいんだって、そう言っていた小春の言葉が耳に響く



その時、息せき切った声がした





「ここにおったんか?探したで」



白石だ…

分かっているのに振り向けない

きっと今の私イヤな顔をしてる






振り向けないまま背中を向けていると身体がフワッと包まれる感覚がした




「つかまえたで」



気がつくと白石の呼吸が耳元に聞こえる


嬉しいのに素直になれない




「何してるのよ、放して」

「放すわけないやろ?お前は俺の相方なんやから」

「漫才の相方なら他に見つければ?」

「俺の相方はだけや」




そんな事を言われてもやっぱり素直になれない

それならちょっと意地悪してみようか?


は「ふぅん」と、抱きしめている白石の手を振り解くと振り向いてニッと笑った




「私を相方にしたいなら条件があるの」

「条件?条件ってなんや?」

「ひとつ…1週間に1回はデートして」

「えぇっ、デートぉ!?」

「ひとつ…、手を繋いで」

「は?」

「ひとつ…、いつも好きだって言って」

「おいおいおい…」




いつも誤魔化している白石だもん、真顔でそんなことできないよね?
そんなことは承知だよ

だから無理な事を言ってみたかった


少しでも女の子として見て欲しいから…




白石は「アホか」ってまた笑って誤魔化すと思っていた


だけど白石は予想に反して何かを吹っ切るように大きな声で叫んだかと思うと
私の頭をクシャクシャに撫でてから少し照れたように笑った


そして、片手をこめかみあたりまで持ってくると「ラジャーや」って敬礼をして見せた





「ホントにいいの?」


ちょっと信じられない気持で聞き返すと
「当たり前や、王子は姫さんの言う事を聞くもんやからな」と恥ずかしそうに頭を掻いた










翌日、1時間も前に登校して校門で白石を待った


私がそんな事をするなんて夏に雪が降るくらいあり得ない事なんだからね




それから、白石の姿を見つけた私は大声で叫ぶ。


飛びっきりの愛を込めて。




「白石〜〜、カム トゥ ゲザーやで〜〜!!」




その声を聞いた白石は猛ダッシュで飛び込んでくる




ちゃ〜〜ん、アイ ラヴ ユーや〜〜〜♪」







やっぱり私たちの間にロマンチックな恋愛色はまだ似合わないみたい



小春、あの顔で「愛してる」って日本語みたいな英語で言ってるよ

いいのかな?




いいんじゃない?

小春の声が聞こえた気がした















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オチが小春ですみません。ちゃんちゃん。 f(--;;