まだ、時間があるから。










SAYONARA










「え……今、なんて…」



全国大会が無事終わり、学校全体の雰囲気も落ち着いてきた頃。

放課後いつものように一緒に勉強をしていたら、予想外の一言。
聞こえてなかった訳じゃないけど、思わず聞き返してしまった。



「……青学が全国大会で優勝したら、言おうと決めていた」



ああ、さすが国ちゃん。
そこから言い直してくれましたか。



「俺と、付き合ってくれないか」



付き合うってアレだよね、本屋に寄るとかそういうんじゃないよね?
もしそうだったら、あたしってば一人勘違い女じゃない?




「ずっと……のことが、好きだった」



ぎゃーーーー!!!!
それはさっきは言ってなかったよ!?

いや、確かに違ったらどうしようとは思ってましたけど。



「えっと、その」

は、俺が嫌いか?」

「あ……あたしで、いいの…?」

「お前がいいんだ」



うわお、国ちゃんがこんなに猛烈アタックをする人だったとは…。

でも、あたしも国ちゃんがずっと好きだったんだよね。
だけどあたしは運動全然ダメで、テニス部なんか絶対入れないし。
だから生徒会に入って、勉強だって頑張ったんだもん。

これは、あたしの努力が報われたってことかしら?!



「あたしも……国ちゃんが、好き」



片想い3年目にして、ようやく両想い。
嬉しくて、思わず泣きそうになっちゃった。



「……良かった。 では、一緒に帰らないか?」

「う、うん」



……あれれ〜…?
国ちゃん、ずっとあたしのこと好きだったって言ってたよね…?

なんか、その割にちっとも嬉しそうじゃないんですけど〜…。


無感動っていうか、表情ちっとも変わってないよ…?






いつも一人で帰る道、今日は国ちゃんが一緒。

ちょっと恋人らしいじゃない?
なーんて思いながらも、ちょっぴり憂鬱。


だって…。



「そういえば、昨日数学の授業で出た課題は終わったか?
 提出は明日だが…」

「う、うん……半分は終わってるから、あとは今日やるつもり」

「そうか、解らないところがあったら訊いてくれ」

「あ、ありがとう」



会話の内容が……教師と生徒みたいだよ…?



「そろそろ文化祭の季節だな。
 生徒会での出し物だが……何かいい案はあるか?」

「えっと……まだ考えてないかな」

「では、思い付いたら教えてくれ」

「わ、わかった……じゃあ、ちゃんと考えとくね」

「ああ、期待している」



なんだか、学校のことばっかり…。
いや、国ちゃんらしいし、学校の話題でも構わないんだけど…。

なんか……本当に付き合うことになったのかな、あたしたち…?


国ちゃんは家まできちんと送ってくれて、また明日な、なんて言ってくれて。
それは嬉しかったけど、なんだかどっと疲れちゃった。
国ちゃんのことは好きなんだけど…あの堅苦しい感じはどうにかならないもんかなぁ。

そういうとこも好きだよ、でもね。



もうちょっと、恋人っぽくなりたいの。







、帰るぞ」

「うん」



一緒に帰るのが日課になって、一週間。

相変わらず、先生みたいな話ばっかり。
ただ、国ちゃんって二人になると意外と喋るんだなぁ、って不思議だった。

その理由が、解るまでは。




「……

「ん、なに?」

「昨日の爆笑レッドカー○ットは見たか?」



……………れ、レッド○ーペット…?
い、今の、聞き間違いじゃないよね…??



「う、うん…み、見た…けど…?」

「お前は何が面白かった?
 俺は天津○村がいいと思ったが」



あ、天○木村かぁ、面白いよねー☆
あたしも結構好きだよ♪♪
吟じ隊、最高ー☆★


……って、ちょっと待てぇえええ!!!!



「く……国ちゃん…?」

「どうした」

「いや、あのね? 別にお笑い見たっていいんだけど…。
 急に、話題が変わってない…?」

「……そうだったか?」

「うん、180度変わったよ?
 どうしちゃったの、国ちゃん」



国ちゃんは突然立ち止まって、眉間にシワを寄せて目を逸らしてる。

何かあったのかな…?



……俺の話は、つまらなくないか?」

「え……」

「一緒に帰って話していても…あまり、笑っていないだろう」



いや、だって笑うような内容じゃなかったし…。

それに、国ちゃんは真面目に話してると思ったから。
ちょっと、笑いながら答えるのは失礼かな、って。



「俺は……お前の笑顔を見て、お前を好きになったんだ」

「国ちゃん…」

「だから、お前の笑っている顔が見たい」



もしかして、国ちゃんが二人のときに結構喋るのって。
あたしのこと、笑わせようとしてたの?



「自分が口下手なのは自覚しているが…。
 ………か、彼女と一緒に帰っているのに、黙っている訳にもいかないだろう」



今、国ちゃん、どもってた…。
っていうか、彼女って言ってくれた。

……どうしよう。



「……ぷっ……あははははっ!」

「………?」

「そっか……そうだったんだぁ…」



国ちゃんは、ただ表情に出ないだけで。

告白してくれたときだって、あたしが好きって言ったときだって。
照れてたり嬉しかったり、あたしと同じ気持ちだったんだね。


ごめんね、国ちゃん。

あたし、自分のことばっかりしか考えてなかったよ。




「ねぇ国ちゃん。 あたし、全然つまんなくなんかないよ」

「そうか…? だが…」

「初めてだったから……彼氏、なんて。
 だから、どうしていいか解んなかっただけだよ」

「そうか……では、俺と同じだな」

「そう、おんなじ!」



あたしが笑ったら、国ちゃんも笑った。

相手が笑ってくれると、こんなに幸せな気持ちになるから。
だから国ちゃんは、一生懸命、苦手な『お喋り』を頑張ってくれたんだね。



「あたし、国ちゃんとお喋りするの好きだよ」

「そうか、俺もだ」

「だから、もっといっぱい喋ろ?」

「そうだな…少し、寄り道するか」

「お供します、生徒会長!
 ……ところでさ、レッ○カーペットってホントに見たの?」

「ああ、中々面白かった」

「吟じ隊が?」

「ふっ…ああ、そうだ。
 だが、真似をするのは難しいな」

「やってみたんだ……」




学校の話題でも、テレビの話題でも、どんなに些細なことでも。

二人で話して、分け合いたい。


だから、喋らずにはいられないんだ。




「ねぇ国ちゃん、今度は一緒にテレビ見ようね」

「ああ、それも楽しそうだな」

「じゃあ、約束ね?」

「ああ、約束だ………



国ちゃんが、初めてあたしの名前を呼んで。

家に帰るまでの短いけど長い時間が、あたしたちを『恋人』にしてくれる。






サヨナラまでの、二人の世界。

さあ、何を話そうか?











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