何気なく発した一言が
こんな事態を引き起こすなんて思ってもみなかった。










Go! Go! 眼鏡’s










「僕も眼鏡…似合うと思うんだけどなぁ」
「そ、そうだね」

「………」
「ふ、不二くんが、一番眼鏡が似合うよ!」



ああ、その笑顔が怖い…!



事の起こりは数時間前…。




◆◆◆◆◆◆




「ねえ知ってる?」

本日最後の授業、音楽室からの帰り道。
菊丸くんと不二くんと一緒に教室へと向かっていた。
同じクラスで同じテニス部。まあ私はマネジですが。
別に何ともない、平和な時間。

だったのに。


「まさかあの手塚くんがね〜」
「あれ、乾はいいの?」
「だって乾くんならなんだかデータのためとか言ってやりそうだけどさ」
「まあオレも不思議だにゃ」
「手塚がね…」


教室に着くなり、雑誌を広げマジマジとある特集を見つめる。


目に飛び込んでくる大きな文字と、カメラ目線の3人組。

「まさか芸能界デビューとはね」


そう、我らが青学テニス部から、手塚くんと乾くん。
そしてライバルセレブ校、氷帝学園から忍足くん。
この3人がユニットを組んでアイドルとしてデビューしたのだ。

すっかり時の人となった彼らは、元々人気があったけど
さらに加速し、うかつに声もかけられないほどなのです。


「でもかっこいいもんね」
「…そうだね」
「眼鏡’sってのが笑えるけど」
は誰が一番タイプ?」


何気ない質問に何気なく答える。

「やっぱり手塚くんかな」


「手塚?」
「うん。だって一番眼鏡も似合ってるし。眼鏡ストだよね〜」





この時の事を私は思いっきり後悔をした。
もしここで、違う選択肢を選んでいたなら…。




◆◆◆◆◆





そして今に至る。

菊丸くんは早々に逃げちゃうし、目の前には不二くんが
こっちをメチャクチャ見てるし…。


助けも呼べないこの状況。



「で?は手塚が好きなの?」
「いや、好きって別に…この中なら誰がっていう話で…」

「じゃあ、誰が好きなんだい?」
「誰がって…」


何で尋問されてるの私?

訳の解らない状況で、頭が痛くなる。
だけどこんな所で負けるわけにはいかない。
売られた勝負は受けてたたないと!


「じゃあ…不二くんは誰が好きなの?」

雑誌を広げ、3人を指差す。

「さあ、誰!」


「…この中で選ぶのかい?」
「そうです」




暫しの沈黙の後、不二はにこっと笑い、の方へと指差した。


「君かな…ちゃん」
「…………………はい?」



目を丸くして驚くに、もう一度ゆっくり繰り返す。


「だから、君が好きなんだ」
「はあ」


「で、君は?誰が好き?
 この僕にここまで言わせたんだから、もちろん答えてくれるよね?」



身を乗り出して近付いてくる不二くんから、逃げつつ
は雑誌でガードした。


「そんなに…嫌い?」

雑誌の向こうから聞こえる不二の悲しそうな声に
は小さな声で「ううん」と応えた。


嫌いじゃない、むしろ好き。
だけどそんな簡単に言えないし、不二が自分の事を好きなんて信じられなくて。


そんな事を考えていたら、突然雑誌が取り上げられ視界が明るくなった。



「嫌いじゃないってことは、好きってことだよね?」


頷いたに不二は手をとって、「ありがとう」と笑った。





「で、どっちが好き?」

「どっちって…それは…」

言わなくてもわかってくれる。
というか、これ以上恥ずかしくて言えないし。

顔が熱くなってるし、マトモに不二くんの方を見れない。



「わかったよ」


納得してくれたかな?
は、ほっとして胸を撫で下ろす。



「僕は、はっきり白黒つけてもらわないと嫌なんだよね」

ポケットから携帯を取り出して電話をかける。

「あの…不二くん?」

「あ、手塚?明日なんだけど、ちょっと時間取れないかな?
 うん…そう、勝負しよう」


不思議そうに不二を見つめるに微笑みかけながら手塚と話している。


「ああ、違う違う。テニスじゃないよ。
 もっと…大切な事」


「ちょ、ちょっと不二くん!!」


慌てて不二の腕を掴んで携帯を取り上げようとする。
しかしそれをかわして話を続ける。



「うん。じゃあ、明日」

「不二くん…本気で?」
「僕はいつでも本気だよ」


もう何がなんだか解らなくなってその場に立ち尽くす。


床に落ちた雑誌を拾い上げ、不二が呟く。



「で、どっちが好き?」










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