今日の空は何故か、寂しくて。 キラ★キラ眼鏡’s いつもの帰り道。 部活が終わるまで、いつも待ってたアイツが隣にいるはずなのに 今日はいない。 つい、先週の事だった。 アイツが両親の転勤で、遠くへ引っ越す事を聞いたのは。 「会えない距離じゃないし」 なんて、最後の帰り道でも言っていた。 それでも今までのように、学校に行けば会える訳でもない。 いつも、門の所で時計を見ながら待ってる姿を見ることもない。 本当は、嫌だ。 でも、そんな事を言える訳もなく。 「そうだな。たまにはこっちにも遊びに来いよ」 言いたいのはこんな事ではなく。 「じゃあな」 「うん」 後ろ姿を見えなくなるまで見送ってた。 もしかしたら、もう一度振り返ってくれるんじゃねえか、なんて。 まったく、俺としたことがどうしたんだか。 ◆◆◆◆◆◆◆ 引っ越す事が決まったのは、ずいぶん前だった。 でもなかなか言えなくて。ううん、言いたくなくて。 そうしたら、このままずっとここに居られる。 そんな気がしたから。 一緒に帰る最後の帰り道、いつもより少しゆっくり歩いたのに 時間だけは早く過ぎていく。 「会えない距離じゃないし」 なんて精一杯強がりを言ってみたり。 本当に言いたいのは、今言わなくちゃいけないのは たった一言なのに。 じゃあね、と別れた後、もう一度振り返る勇気が出なかった。 彼の顔を見たら、泣きそうだったから。 ◆◆◆◆◆◆ 一人で帰るこの道が、こんなに暗かったんだなと 改めて感じた。 アイツも同じように感じているんだろうか。 ふと空を見上げると妙に月が綺麗で、なんとなく携帯を取り出し写真を撮る。 そのまま削除しようとボタンに指を持っていくが、思い直して メールを送った。 今まで用件しか送ったこともなかったが、 もしアイツも同じように感じていたなら。 送信ボタンを押すのにこんなに勇気がいるなんて思ってもいなかった。 こんな姿、誰にも見せられない。 しばらくして携帯が鳴り、同じような月の写真が添付されていた。 『こっちはこんなかんじ』 なんて。 離れていても、こうして同じ空を見ている。 一緒に帰っている。 傍から見ればバカバカしい事だろう。 それでも毎日の帰り道が、少し楽しくなった。 毎日、写真を撮りメールする。 たった1通ずつのメールだけど、一緒に帰っていた時より ずっと近くなったような気がしている。 今ならあの時に言えなかった言葉を伝えられるかもしれない。 そんな時、今夜は流星群が見られる、と忍足から聞いた。 特別な景色を理由に、会いに行ってもいいだろうか。 滅多に見れないこの景色を一緒に見たいから、と。 そう思い立ち、急いでアイツの所へ向かう。 車を使えばあっという間なのに、自分の足で向かいたくて。 着いた時にはもう夕方で、日も暮れかけようとしていた。 息を弾ませ門の前でアイツを待つ。 時計に目をやり、この時間ならまだ帰っていないはずだと確認する。 「跡部くん?」 久しぶりに聞く声、久しぶりに見る姿。 「よう」 唖然としているその姿に口許が緩む。 無性に嬉しくなった。 そして再認識した。俺は、コイツが好きなんだと。 こっちに歩いて来るアイツに、電話を掛ける。 「跡部くん?誰にかけて…」 「いいから出ろよ」 大きく溜息をつきながら、電話に出る。 「もしもし」 「帰ろうぜ、」 呆れてたけど、アイツは笑った。 帰り道に空を見上げると、確かに流星群だ。 流れ星がたくさん見える。 「あ、また流れた」 携帯を取り出して、写真を撮る。 ほら、と画面を見せるの手を掴んで引き寄せる。 今なら言える。 あの時、伝えられなかった一言。 流れ星に力を借りて、そっとアイツに告げる。 小さく頷いて、手を繋ぐ。 ずっとモノクロだった景色が色付いた。 会話は少ないけど、ぐっと近付いた二人の距離。 傍に居たときよりも、もっともっと近付いた。 「じゃあな」 「うん、今日はありがとう」 お互い背中を向け、歩き出す。 足音が遠くなっていく。 は振り返り、跡部の下へ走っていった。 「跡部くん!」 「どうした?」 「また、ね」 ふっと笑った跡部くんのその顔は今まで一度も見たことがなく とても優しかった。 「ああ」 そっと触れた唇。 「約束な」 背を向けて歩き出す跡部の後ろ姿を、見送る。 『次は私が会いに行くね』 そう心の中で誓い、家へと入る。 空では星がたくさん輝いていた。 Back |
背景素材『JOURNEY WITHIN』様からお借りしました。