先が見えないと、不安になる。 でも、不安にならないことだって、あるんだ。 CROSS WITH YOU 「すみません宍戸さん、俺の所為で…」 「気にすんなよ、長太郎」 練習試合が終わって、他の皆が片付けをしているとき。 ダブルスパートナーとして一緒に試合に臨んだ鳳が、宍戸に向かって頭を下げる。 「でも、あそこで俺が焦らなければ…」 「ダブルスの試合で、どっちの所為もねぇだろ。 次負けなきゃいいんだよ、分かったか?」 「は…はい! 次は絶対勝ちましょうね、宍戸さん!」 「おう。 じゃ、さっさと片付けて帰ろうぜ」 「はい!」 まだ若干落ち込んではいるものの、元気よく返事をし走り出した鳳の背中を見送って。 フェンスに寄り掛かり、赤く染まった空を見上げて、溜息を一つ。 「……激ダサだな、俺…」 練習試合とはいえ、負ければそれなりに落ち込む。 後輩である鳳には気丈に振る舞っているが、一人になれば溜息も出る。 励ます為に言った言葉は、自分に向けたものでもある。 だが実際その通りにすることが難しいことは、自分が一番よく分かっているのだ。 「くよくよしてんじゃないわよ」 「うおっ」 突然背後から聞こえた声に、驚き振り返ると。 「…お前な、いきなり現れんなよ」 「あら、失礼。 でもいきなりじゃないわよ? 激ダサだな、俺…とかカッコつけてるとこから見てたし」 「別にカッコつけてたワケじゃねーよっ」 は、それなりに仲の良いクラスメイト。 友達がテニス部の誰かが目当てだとかで、付き合いで応援に来ているらしい。 そういえば、初めて会ったときも。 『ちょっと、そこのロン毛』 『はぁ?! てめ、人呼ぶのにロン毛って…!』 『だって名前知らないんだから、しょうがないじゃん』 『…あー、そーかよ。 で、何か用かよ』 『あんたね、男のくせにくよくよしてんじゃないわよ』 『なっ…』 『負けたからって、ずーんとへこんじゃってさ。 激ダサだわ』 『う…うるせぇ! てめーに何が分かるんだよ!』 『分かんないわよ。 でもさぁ、負けたからって何? 次は勝てばいいだけの話じゃない』 とんでもない女だ、多分最初の印象はそうだった。 でも、そのとんでもない女の言葉に、ほんの少し救われた気がした。 「……ちょっと、なに急にボーっとしてんの?」 「いや…初めて会ったときも、同じこと言われただろ」 「えー…そうだっけ〜?」 「お前なぁ…」 「うそうそ、ちゃんと覚えてるって。 あの頃は髪長かったよねぇ、うざいくらい」 「まぁな、今伸ばしたら多分うぜぇだろうな」 「うん、今の方がいいと思うよ。 似合ってるし」 ふと笑顔で言われた言葉に、ガラにも無くときめいた。 自覚はしている、きっとこの気持ちは初めて会ったときからだ。 「……あの、さ」 「んー? なに?」 「その……次の試合、勝ったら、よ…」 「うん」 「………やっぱ何でもねぇ」 「えぇ〜?! ちょっと、それムカつくんだけど」 「るせぇな、勝ったら言うよっ」 フェンス越しの会話で良かったかもしれない。 背中を預けてしまえば、赤くなった顔は見えない。 まして、今は夕方だから、きっと気付かれない。 次の試合に勝ったら…って呼んでもいいか? 心の中で呟いて、ちらりとの顔を見る。 「ねぇ、何なの〜?」 「なんでもねーって」 って呼んだら、お前はどんな顔をするだろう。 それを見る為にも、次の試合は絶対に勝ってみせる。 先の見えない十字路のような、不安に囲まれていても。 お前が居るなら、お前の笑顔が見られるなら。 不安にだって勝って、進んでみせる。 だから、次の試合は見に来いよ。 友達の付き合いなんかじゃなくて、俺の為に。 Back |