DA・DA・DAは魔法のコトバ?


DA・DA・DAは恋の呪文?


DA・DA・DAは勇気の出るおまじない




どうか、この想いがキミに伝わりますように…










DA・DA・DA










オレとはいわゆる幼馴染っていうやつや


幼稚園の時からの腐れ縁で、家も近所、学校も同じ、おまけにクラスも一緒。
いいかげん飽きるやろ?と思うてたんやけどな…



いつからやろうか?
妙に意識しだして、気づいたらアイツとよう喋られんようになっていた


可笑しなもんや
幼稚園の時は『スキ』も『キライ』もハッキリ言えとったのに…


手を繋ぐ事もキスをする事も平気でしっとったような気がする



それが簡単に出来んようになったということは、
アイツを女として意識し始めたって事だと最近気づいた






「謙也くん、おはよう」

「お、おう…」




ただの挨拶さえぎこちなくなっていく




久しぶりに従兄弟の侑士と電話で話しながら、ふと何気なく訊いてみた
別に相談するつもりはなかったんやけど、ただなんとなく…な。

すると侑士のヤツが受話器の向こうで笑いを堪えているのがわかった


「なに笑ってんねん」

「ククク…、なぁ謙也、スピードスターの名が泣くちゃうん?」

「テニスのようにはいかんわっ」

「ま、惚れてるんなら早いとこコクって砕けたらええやん
 当たって砕けろって昔から言うやろ?」

「砕けてどないすんねん」

「ははは、ほな砕けんの期待してんで」




なんやねん、言いたい事だけ言って一方的に切りよった
めっちゃムカつくねんけど…




せやけど、侑士の言う事も一理あるかもしれへんなぁ
気持ちを抱え込んでるのはオレらしくない…って思う

ここは一つ砕けたくはないけど当たってみるべきやないか?


そう決めたら早い
浪速のスピードスターの名に掛けてもアイツに打ち明けてやるわ










何でやろ?最近謙也くんはウチのこと避けてる気がすんねんけど…

ウチが謙也くんに声を掛けるのにどれだけ勇気がいると思うてんねん
それこそ清水の舞台から飛び降りるくらいの覚悟なんやで…


でも、ウチには勇気の出るとっておきのオマジナイがある



あれは幼稚園の時やった

勇気が出るオマジナイの言葉を先生が教えてくれた



『DA・DA・DA』



今になると、あんなものはただの気休めに過ぎないのに
あの頃は本当に勇気が出た気がしてたなぁ

大きくなってそんな事は迷信だと確信が持てたのに
気がつくとウチは今でもそのオマジナイを唱えている


心の中で何度も『DA・DA・DA』と。






「(DA・DA・DA)謙也くんオハヨー!」

「(DA・DA・DA)な、な、宿題やってきた?」




こんな些細な日常の会話でさえオマジナイを唱えるほど勇気がいるなんて…
アホやなぁって思うけど、これもどこかよそよそしくなった謙也くんの所為や。


最近めっきり女の子に人気が出てきて、ウチとは口もよう聞いてくれへん
今まで一番近くにいたのに、遠くなった気分だ

きっとこのまま何の変化もなく卒業していくんやろか?
そう思ったらなんや自分らしくないって思うた


せやから心臓のドキドキをオマジナイの言葉で?き消すように
胸の中で大きく唱えた

『今日、一緒に帰ろう』と、そう告げるために…










放課後、小春や金ちゃんが騒ぐ中オレはこっそり練習を抜け出した
今日は一世一代の告白をする日や、練習なんてやってられん



テニス部の練習が終わるのを待とう
その時はそう思いながらぼんやりと窓から見えるテニスコートを眺めていた


互いには知らない同じ気持ちを抱えたと謙也は
胸の中でオマジナイを唱えていた






「まだ居ったんか?」




突然の声に窓の外を見ていたは、その視線を声のする方に向けると
息を弾ませている謙也がそこに立っていた




「練習はどないしたん?」

「あ……サボりや」

「…ふぅん」




思いがけないきっかけに二人は言葉を失くした


『一緒に帰ろう』
そんな簡単な言葉なのにスムーズに声にならない

謙也がそう思うようにも同じことを考えていた



気まずい空気が流れる中、はそれを逸らすように視線を窓の外に移した




向き合っていると言えん事も、背中を向けている状態なら言えるかもしれん

謙也はが振り向かないように祈りながらオマジナイを唱えた
そして、大きく深呼吸をすると「まだ帰らんの?」と声を掛けた

すると、は少し困ったような顔をして歯切れの悪い口調で
今帰るところだと言って、溜息交じりの笑顔を見せた

そして、窓を閉めると机の上に置いてある自分の鞄を手にすると
小さい声で漏らすように「バイバイ」と言って教室を出て行った




うわぁ…ちゃうねん
オレが言いたい事はそんな事やないんや

ちょっと待ってくれ




慌てて追いかけながらを呼び止めると、は廊下の真ん中で
ピタリと止まってゆっくりと振り向いた


「何?」

「今帰るとこなんやろ?」

「……そうだけど…」

「き、奇遇やなぁ…オレも今帰るとこなんや」

「ふぅん」

「どうせ家も近所やし…帰る道も一緒やし…」

「…うん」

「い…一緒に帰る……か?」





久しぶりに一緒に帰りながら話が出来る嬉しさと
自分から言えなかった勇気のなさに少し戸惑いの色を見せながら
素直に頷けないでいると、「ほな行くで」と謙也は急ぎ足での前を歩き出した

そんな謙也の背中を見つめながら、は何度もオマジナイの言葉を唱えていた






学校を出てからは、もうすぐ全国大会だとか、試合頑張れとか
途中何度も途切れそうになる会話を繋ぎとめながら歩いていた



家が近付くにつれ、その話題は宿題の話にすり替わっていく



互いに話したい筈の本題にならないまま
小さい頃いつも遊んでいた公園が目の前に近づいていた

この公園を抜けてオレたちの家は左右に分かれている




謙也は「ブランコに乗らへん?」と声を掛けると
公園に入ってすぐ左にあるブランコに向かって行った



今日がに告白するチャンスや 今日を逃したらもう言えん

そんな事を頭の中で何度も繰り返してブランコに腰を下ろした




も同じような事を考えていたが、謙也の様子がどこか違って見えて
言い出すきっかけを失っていた




「何かあったん?」




心配そうに聞くの問いには答えず、謙也はゆっくりとブランコを漕ぎだした



やっぱり何かあったんや…
今は告白なんかしてる場合やない

もブランコに腰を掛けて、隣で前後に揺れているブランコを眺めていた




「なぁ、悩み事でもあるんか?」

「悩み?……せやなぁ……悩みならあんで」

「ウチでよかったら聞くで」




次第に大きく揺れ出したブランコの上から笑い声が聞こえる



「大丈夫や、悩みはあるけど…今解決する!」

「…なら、ええけど」




すると、謙也は急にブランコの上で立ち上がると
身体を使って更に大きくブランコを揺らした



隣で大きく揺れているブランコを見ながら、
その動きに合わせるようにもゆっくりとブランコを漕ぎだした




「なぁ…」

「何?」

「…あのなぁ」

「何やねんな」

「オレな…」

「…うん?」




止まってしまった言葉を吐き出すように
ぐんぐんと揺れが大きくなっていくブランコが限界に達した頃
突然頭の上の方で聞いた事のある言葉が響いてきた



「DA・DA・DA」




それは幼稚園の時に教えてもらったオマジナイの言葉。
謙也はその言葉を大きな声で唱えていた

何で謙也くんがオマジナイを?
いつも自信満々そうな謙也くんも勇気が欲しかったの?

がそんな事を考えていると、「…オレな……お前が好きや」と
頭の上から降り注がれるように魔法の言葉が聞こえた

それはどんなものにも代えられない魔法のコトバ。




「イヤ…か?」



何言うてんねん イヤな訳ないやろ?

一番欲しかった言葉をくれたんやから…


謙也くんがオマジナイの言葉で勇気をもらって魔法の言葉をくれた



今度はウチの番やねと、もブランコを大きく漕ぐと
「DA・DA・DA」と叫んだ後「ウチも謙也くんが好きや」と答えた




「ホンマに?」

「うん」




謙也は感激に浸ったのか、暫し言葉を失っていたが
直ぐに「よっしゃー」と声を張り上げてブランコから飛び降りてガッツポーズをした






「嘘やないよな?」

「嘘ついてどないすんねん…せやけど…謙也くん……一つ聞いてもええ?」

「何や?」

「ウチの事スキって言うてくれたけど…それって幼馴染やから?」

「アホ言いなや…、明日も明後日も明々後日も一緒にいたい……ちゅうことや」








それから、オレたちは公園の中の十数メートルの道程を手を繋いで歩いて
明日の約束をして右と左に別れた


空に輝く一番星がもうオマジナイの言葉はいらないと告げているようやった






見たか侑士? オレ、砕けんかったで

今度自慢したるわ















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