子供みたいだって笑ったっていいよ


我儘なヤツだって思われたっていい


だってキミの笑顔を独り占めしたいから




だから、オレ以外のヤツに振り向いたりしないで










Don’t Look Back










、例の提案だが…」

「卒業アルバムに載せる写真の事で話があるんだ…」




そりゃあキミは生徒会に入っているからさ

会長の手塚や卒業アルバム製作委員会の不二と話をする機会が多いのは分かるよ


でもさ、その度に笑顔で振り向くキミを見るたびに妬けちゃうんだよ




、今日一緒にお昼を食べないか?」

「うん、いいよ」




朝の下駄箱前で、大石と約束している


何だよ大石…オレの気持ちを知っているくせに…
同じクラスっていう特権を大いに利用しちゃってさぁ


だよ、そんな嬉しそうな笑顔で応えるなよな

そうやってアイツはいつもオレの欲しい笑顔でみんなに応えるんだ

オレなんか振り向いて欲しくたって何の話題もない
なんか疎外感を感じちゃうんだよなぁ








「おーい菊丸、呼んでるぞ〜」




せっかくの昼休み、は大石と楽しくお弁当を食べちゃったりしてるんだろうにゃ

ちょっと拗ね気味に窓の外を眺めていたらクラスメイトが廊下を指差して叫んだ
オレが示された廊下の方を見ると、そこにはが笑顔で手を振っていた




え?えぇええーーっ!!ど、ど、ど、どうしたのかにゃ?


これは夢?



軽くほっぺを抓ってみたらすごく痛かった
これって夢じゃないよな?



オレは足取りも軽く瞬間移動でもするかのように、
逸る気持ちを抑えながら廊下に直行した




「あれ、じゃん、どうしたのかにゃ?」

「うん、よかったら菊丸も一緒にお昼しない?」




ひゃっほ〜〜♪思わずキャット宙返りをしたい気分!!!


本当は嬉しくてに抱きつきたくなっちゃってるんだけど
急に朝の大石との約束を思い出しちゃってさ…




「え〜、でもさは大石と約束してたじゃん」




うっわ〜、オレのバカ…何て勿体ない事を言っちゃってるんだよ〜〜




「菊丸も一緒だと楽しいかなって思ったんだけど…ダメかな?」




ダメな訳ないじゃん、全然オッケイさ!なんて言いたいのに
オレはきっと素直じゃないんだ

『菊丸も』って言われた事が、何かついでみたいに聞こえちゃって…





「ごめんにゃ、今日は桃ちんたちと食べる約束してたんだ」なんて
みえみえのウソを吐いちゃった


せっかく誘いに来てくれた時のの笑顔がオレに向けられたものだったのに…




「そっか…残念だけどしょうがないね」





嘘、嘘だよ。ね、もう一回誘ってくれないかにゃ?
…なんて、そんな図々しい事言えないよ〜〜〜






「うん、ごめんにゃ」




オレが謝るとは笑ってくれたけど、それはいつもの笑顔じゃなかった


だって、オレはいつだってキミを独り占めしたいと思っているのに
大石と一緒だったらそれは半分になっちゃうよ


キミを好きになればなるほど欲が膨らんでいくんだ











放課後、部活の時に大石が「何で来なかったんだよ」って笑った


大石はどうやらオレにチャンスを作ってくれたんだって分かった




「あーぁ」って棒に振ってしまったチャンスを嘆いていると
大石が「英二らしくないな」なんて、また笑う


それがまた面白くなくて「オレらしいって何だよ」だなんて八つ当たりもいいとこだ




自分で分かってる。大石の言う通りだって。


確かにイジイジ、ウジウジってオレの柄じゃない




くっそ〜〜!



よぉ〜し!!




菊丸ビームを出しまくって責めちゃえばいいんだよな?




オレ以外のヤツに振り向かないで…じゃなくて
オレに振り向いてよって言っちゃえばいいんだ


でも、どうやって?


う〜ん、そこが問題にゃ











翌日の昼休み、オレはのクラスに急いだ

急ぐ理由はただ一つ、オレ以外のヤツに先を越されないため…だったのには既に教室にいなかった

出鼻を挫かれた気がしたけど、そんな事で落ち込んじゃいられない




「大石、は?」

「今日は天気がいいから屋上で食べるって言ってたみたいだけど」

「よし、屋上だにゃ」




背中越しに「頑張れよ英二!」って大石のエールが聞こえて
オレはそのまま「オ――ッ!!」と、拳を振り上げて屋上へ急いだ






オレは走る


菊丸ステップで走る走る




オレの足はまでノンストップ!!









屋上に辿り着くとは友達と仲良くお弁当を広げていた


オレが大きな声でを呼ぶと、
振り返ってオレに笑顔を向けてくれるまでの時間がスローモーションのように見えた






「菊丸…どうしたの?」

「一緒にお弁当食べよう」





「うん、じゃあここに座って」とは頷きながら
自分の隣に手招きしてくれたけど、オレはねそこで食べたい訳じゃないんだ


キミと二人で過ごしたいんだ




オレは手招きしてくれたその手を取って走り出した






「きっ、菊…丸…!?」






あはははは


キミの驚いた顔ったらなかったね



えへへ、作戦大成功!ってね




後ろから冷やかしの声が飛んでたけど、そんなの気にしないもんね



いいよ、もっと冷やかしてよ

その冷やかしがオレに勇気をくれるんだからさ



オレはの手を引いたまま屋上から校舎裏まで走った


途中何度も彼女は止まるように言ったけど、それはもう無理なんだ


走り出した思いと足はもう止まらない

繋いだ手も離したくない


だからどんなにキミが頼んでも止まったりはしないんだから










校舎裏まで来た時、は肩で大きく息をして
崩れ落ちるように木に凭れかかりながら座り込んだ




「疲れた〜」

「体力ないにゃあ」

「…うん」




なんかさ、本当はいきなり攫ってきちゃったから怒っているかなって思ったんだ
でも、キミは少し呆れていたみたいだったけどそんな素振りは見せなかった






「にゃはは、んじゃお弁当食べよ」

「あ…、いきなりだったからお弁当屋上に忘れてきちゃったよ」

「だいじょうブイっ!オレのお弁当をあげるからさ」

「よし、じゃあ全部もらった」

「うっそ〜ん、オレのがなくなっちゃうじゃん」




キミはクスクス笑って「じゃあ、半分こ」って箸で卵焼きを掴むと
オレに食べさせてくれたんだ


オレが半分だけ卵焼きを食べると、は残りの半分を自分の口に入れた





「うん、甘くて美味しいね」





うわわぁあああ  ドキドキだよ〜

心臓が口から飛び出ちゃうってこういう事なんだって思った


でも、このままキミにドキドキしているなんて思われたらちょっとシャクだから、
平静を装って「お返しだよん」って大好きなタコさんウィンナーをキミの口に入れた




「半分だけだよん」

「うん」

「あー、ずるいそ…オレ、タコさんの足だけじゃん」

「あはは、気にしない気にしない」

「気にするってば〜〜」




ずっと望んでいたこんな光景が嬉しくてオレがはしゃいでいたら
がふと箸を止めてオレを見つめた



「な、なんだよ〜、そんなに見たら照れちゃうじゃん」

「あはは……菊丸ってさ…」

「ん?」

「菊丸は私の事嫌いなんだって思ってた…」

「え〜〜、そんな事あるわけないじゃん」

「本当?」

「あったりまえじゃ〜〜ん」







意外だったよ


まさかがそんな風に思っていたなんてさ


オレの方こそ嫌われているんじゃないかって思ってたのに…




「なんかさ、菊丸って私には無愛想だったし…」






そんなつもりなかったんだけどにゃあ

いつもドキドキしてて上手く話せなかったからそう思われちゃったのかな?




「ごめんにゃ、でもさオレ…の事大好きだよ」




自分でも驚いた

オレ、のこと大好きだって言っちゃったよ




反応が少し恐かったけどキミは「よかった」って、
胸を撫で下ろすように笑ってくれた




「私も菊丸の事大好きだよ」ってちょっぴりピンク色に染まった顔を見たら
その頭をクチャクチャに撫でて、思いっきり抱きしめて…

それからそれから、ほっぺにチュッてしたくなっちゃうくらい嬉しかった






いつまでも続いて欲しいと思うこの瞬間に浸っていたら
「ちょっと話があるんだが…」って後ろから声が聞こえた



げっ、げげっ、手塚じゃん




がいつものように笑顔で振り向こうとした瞬間、
オレは彼女の両方の頬を押さえて振り向かせないようにした




「手塚、は今オレのなんだぞ〜」





普段ならニブチンの手塚が「どうやら邪魔をしてしまったようだな」なんて目を細めた


きっと大石からオレの気持ちを聞いているに違いない


でも笑われたっていいんだ
だって、振り向かせたくないんだもん




「き、菊丸…?」




でも、咄嗟とはいえとんでもない行動に出てしまったぞ


ヤバイ、ヤバイよ



だけど、キミの頬に触れているこの手が離せない





「うわぁ、ごめんにゃあ」と叫ぶと、オレはそのままを抱きしめちゃった



きっとオレの心臓が破裂しそうなくらいドキドキしているの聞こえてるよね?






「あのさ…今は振り向かないでよ……今だけでもいいからさ…
 オレ以外のヤツに振り向かないで…オレだけを見てて…」





って。あれ?反応なし?

ゲゲッ…もしかしてヤバかった?




咄嗟に「な〜んてにゃ」って誤魔化そうとしたらキミは「苦しい」って
オレの腕の中でバタバタともがいていた



うわわわわ〜〜〜




「ご、ごめん…大丈夫?」




オレが慌ててを手放すと、キミは真っ赤な顔で「ぷはーっ」って大きく息をして
それから「あー、びっくりした…。でもだいじょうブイッ!」って
オレの口調を真似してVサインを見せて笑った


そして、オレが耳を疑うような事を言ってくれたんだ






「私はずっと菊丸の事見てたよ…。気付かなかった?」






え―――っ!?



知らない そんなの全然気付かなかったよ――っ!!






「じょ、冗談じゃないよな?な?もう取り消しは出来ないんだからにゃ」

「ふふっ、取り消さないよ」





あぁ、オレの心に録音機能があったらいいのに…
そしたら何度だってリピートさせちゃうのに。







『これからもずっと菊丸を見てるよ』









うん、オレもずっとを見てる










だからさ他のヤツにその笑顔で振り向いたりしないでよね


いつだってオレの声に振り向いてくれにゃ!!















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ん?菊ちゃん…ちょっとわがまま?(笑)