人生なんて楽しんだ方がいいに決まっている 泣いたり怒ったりするより笑っていた方がいい。 大人になった時に後悔なんてしたくないから 今を楽しく、そうロックのノリでガンガン行こうぜ!! ロック☆54!? 「ね、桃ちゃん…海堂の事教えてよ」 「あ?マムシの事ぉ〜!?も物好きなヤツだな あんなヤツのどこがいいんだ?悪いこと言わねぇから俺にしとけって」 確かに海堂は目つきも悪いし、いつも怒っているみたいだけど それでも好きになっちゃったもんはしょうがないじゃない? それに、桃ちゃんは海堂とはライバルみたいだし、 海堂の事は桃ちゃんに聞くのが手っ取り早い…、っていうか聞きやすい こんな時幼馴染みっていいなと思う(勝手でごめん) でも桃ちゃんは「教えられねぇなぁ、教えねぇよ」なんて意地悪く笑う 「ケチ!」 「面倒くせぇよ、自分で観察しろよ そうすりゃあマムシの事なんて直ぐに分かるってもんよ」 なるほど…、観察かぁ は二年になって間もない頃、桃城に誘われ初めてテニスの試合を見た その時、たまたま桃城とダブルスを組んでいた海堂薫に釘付けになった 最早、一目惚れだった その日から海堂の事をずっと目で追いかけていた(案外私って一途じゃん) そうだよね、桃ちゃんの言う通りだ…じっとしているなんて私らしくない ガンガン当たって砕け…たくはないから とりあえず彼の言うように観察をしてみる事にした 「じゃ〜〜ん!」 は机の上にノートをポンと置いた ノートの表紙には大きくハートの絵が描かれている 「何だそれ?」 「えへへ、海堂薫の観察日記♪」 桃城は呆れたように大きく溜息を吐いたが 「ま、頑張ってくれ」との肩を軽く叩きエールを送った ********** 1日目…。 少し引きつったが思い切って笑顔で「おはよう」と挨拶した。 海堂は小さく「ウッス」と答えてくれた。やったね♪ その後、「何を笑ってやがる」と怒られちゃったけどね。 2日目…。 テニス部の練習を観に行って海堂を観察。 バンダナを外した海堂の髪がぺちゃんこになっているのが可笑しくて笑っちゃった そうしたら「何を笑ってやがる」と、また言われた。 気付いていたんだ… 3日目…。 休日で海堂に会えない。つまらない。 ブラブラと散歩をしていたら偶然ランニング中の海堂と遭遇。ラッキー!! これはもう運命だわと意気揚々と海堂をプチストーカー。 4日目…。 「ちょっと来い」と突然海堂に言われた。 これはもしや愛の告白〜?なんてルンルン気分で付いていったら 「俺の後を付けてるんじゃねぇ」と怒られた。 あちゃー、ストーカーしてたのバレバレだったんだね。トホホ 5日目…。 海堂の雰囲気がいつもと違うと思っていたら 髪の後ろがちょっと撥ねていた。あっ、寝癖だ…カワイイ♪ 思わずププッと笑ったら、「何を笑ってやがる」と睨まれた。 6日目…。 下校途中海堂を見かけた。何やら猫とにらめっこをしている様子。 「生意気な…」とか「笑え」とか猫に向かってブツブツと呟いていた。 ちょっと海堂…、猫は笑わないから… 7日目…。 今日は朝からずっと雨。海堂との相合傘を妄想しながら下校。 途中、昨日の猫に傘を差しのべる海堂を発見。 「風邪引くぞ」なんて……ちょっと猫にジェラシー。 8日目…。 桃ちゃんから海堂情報をキャッチ。 海堂はきれい好きらしい。おまけに家事全般得意だとか… げーっ、大雑把な私と正反対……ちょっと落ち込む。 9日目…。 下校途中にこの間の猫を発見。なんと首にバンダナを巻いていた ちょっと目つきの悪いその猫に『カオル』と命名。 あれ?あのバンダナ海堂のと似ている もしかして海堂が巻いてあげたのかなぁ? これは確かめるしかない。 もし海堂のバンダナだったら? そりゃあもう頂戴するしかないわよね〜♪これって犯罪じゃないよね? 「カオル〜おいで〜」 「カオル〜、カオル〜♪」 猫は短く「フギャッ」と鳴いて私を睨みつける か、かわいくない!…でも、海堂に似ているから許す。 …なんて、考えていたら「おい」と、後ろから声を掛けられ 恐る恐る振り向くと少し不機嫌そうな顔をした海堂が立っていた 「どういうつもりだ?」 「な、何が?」 いきなり喧嘩を売られたのかと思い、息を呑んだ 「人の名前を勝手に呼び捨てにするんじゃねぇ」 「え?…あ…えーと…」 もしかして、さっきの聞いていたんだ? 「あれは…その…猫の名前なんだけど…」 「あの猫…カオルって名前なのか?」 「あ…いや…私が付けたんですけど……えへっ」 「なんだとっ!?」 ちょっと海堂…、怖いんですけど〜 そんな脅すような目で睨まないでよ〜 笑って誤魔化すしかないよ 「ちょっと海堂に似てるかな?…って思って…ははは」 うわぁ、海堂の顔がみるみる赤くなっていく やばっ、これは怒りの局地ってか〜!? しかし、海堂は意外にも「フン、くだらねぇ」と言っただけで 怒っている訳ではないみたいだ おまけに鞄からネコ缶を取り出して「ほらカオル、食え」なんて言う始末。 しかも、猫のカオルは私には憎らしい態度をとったのに 海堂の手から餌をもらい美味しそうに喉をゴロゴロ鳴らせて食べている ちくしょー、羨ましいぜ 思わず「いいなぁ」と口を吐いて本音が漏れる 「何がだ?」 「あ…ネコが…いや…美味しそう…」 「食いたいのか?」 「そうじゃなくて、海堂の手から食べさせてもらうなんて」 「は?」 「私も海堂の手から食べさせてもらいたい…な〜んちゃって」 「なっ…」 し、しまった ど、ど、どうしよう…とんでもない事を口走っちゃたよ 心臓がロックビートより速く脈打ってるよ 海堂は真っ赤な顔をして「勝手に一人で食ってろ」って ネコ缶を私に放り投げると逃げるように走って行っちゃった なんか海堂ってカワイイ(ハート) ********** 20日目…。 海堂について少し分かった事。 恐い顔をしているけど動物に好かれるみたい。 きっと海堂が優しいってこと分かっているんだ。 どうしよう、ますます海堂の事が好きになっていくよ それから10日ほど経ったある日、帰ろうと下駄箱まで来た時 とんでもない事に『海堂薫観察日記』を教室に忘れた事に気付いた もし誰かに見られたりしたら超恥ずかしい。 慌ててダッシュで教室に戻ると、何と桃ちゃんが私の席で 『観察日記』を読んでいるではないかっ!! しかも、傍らには海堂までいる げげっ、なんてこったい 「も、も、も、桃城―――っっ!!」 慌てて桃ちゃんの手から『観察日記』を奪い取る速さは新幹線より速かったと思う。 心臓は最早8ビート、16ビート、32ビートと倍々速で動いていく。 私は傍に海堂が入るのも忘れ思わず叫んでいた 「桃城、ぶっ殺す」 思いっきり素を出してしまった 後悔してももう遅い しかし、海堂は「ぶっ殺すなら手伝うぞ」と何と私に加勢して来た えっ、えぇーーーっっっ!!! ヤダ〜、気が合うじゃん なんて思っている場合じゃないわね 「み、見た?」 「フン」 あ、見たんだ……読んじゃったんだ… きっと、やめるように言われるのだろう もしくは嫌われるに違いない…そう思った だけど海堂は私から視線を逸らして「くだらねぇ」って言っただけで 後は何も言わずに教室を出て行った 海堂…? それって私のしている事を否定したわけじゃない…よね? 一人残った教室で私は今まで書いてきた海堂の『観察日記』を読み返した 海堂に一目惚れしたあの日から今日までの思いがロックのリズムに乗って 胸に何度も流れ込んでくるようだった 激しいけどちょっぴり切ない やっぱり海堂が好き その日から『観察日記』には毎日『海堂が好き』とだけ記されていた ********** 延々と『好き』という文字だけが浮かんでいるノートも そろそろ終わりのページが近付いていた あれから、海堂とはそれなりに話すようにもなったし、 二人きりとはいかないが、時々一緒に帰る時間も持てるようになっていた それなりの友達関係が成り立ち始めていたが、それ以上の進展はなかった そんな状態が続く53日目、ノートも最後のページになってしまった やっぱり思い切って告白するっきゃないかな? こんなウジウジしているなんて私らしくない GO! GO!!!なんて自分に気合いを入れてみたりして… 53日目…。 朝、下駄箱の所で海堂と挨拶を交わす。 あと一日分でノートも終わる。明日、海堂にちゃんと伝えよう 『好き』って… 翌日の放課後、私は少し薄暗くなった教室で海堂の練習が終わるのを待っていた。 最後のページの最後の行。告白するにはもってこいの日だ。不安はない。 どんな結果になってもポジティブ精神で乗り切る! 胸の中が心地良い大好きなロックのリズムで高鳴っていく ノートの最後の行に『54日目』と記した時、海堂が教室に入ってきた 「あ…」 海堂は思わず声を洩らしたから微かに視線を逸らしたまま、 ゆっくりと近付いてきた 「海堂…」 「……」 「あのね……私…海堂が…」 が決意を伝えようとした時、海堂はまるでそれを遮るように咳払いを一つした そして、「54日目」とボソッと言うと、机の上の『観察日記』に視線を落とした あっ、ノートを開いたままだった 今更隠す必要もないけど、改めて見られるとやっぱりちょっと恥ずかしい。 はさり気なく手を乗せて隠す仕種を見せた 「……、そこの54日目…」 「…え?」 「そこに…、俺もだ……と、書いておけ」 「…えーと……それって…?」 「な、何度も言わせるんじゃねぇ」 そう言って横を向いた海堂の顔が少し赤かった事と そして、「帰るぞ」と向けたその背中と声が優しかった事を は心の中の観察日記にしたためた 「あ、海堂…ちょっと待って」 は急いでペンを取り出すと、『54日目』の文字の後に「俺もだ」と書き加えた 海堂はまた「フン、くだらねぇ」と言ったが、 それは海堂の思いのこもった最高の言葉なのだと初めて知った 初めて二人きりで帰る道、頭の中で大好きなロックのメロディが流れてきて 54日目に伝わった思いと海堂の気持ちが重なって心地良い音を奏でる あっ、今気付いちゃった ロック好きなだけに54日目だったのかな? ロック☆54!?…なんちゃって こんな事を言ったらきっと海堂はまた言うんだろうなぁ 「フン、くだらねぇ」って…。 BACK |