背景素材【Abundant Shine】様





二人のセカイは、繋がる?










DISTANCE










ちょうど一年前の2月14日、バレンタイン。

男子女子関係無く、クラス全員、部活仲間にまで手作りチョコを配っていた女子。
気が強いけど可愛いと評判の、女子テニス部の1年生らしい。

同じクラスで、隣のコートの女テニ部員、でも気に掛けたことなんて無かった。


だけど俺と仁王はクラスも一緒で、部活もテニス部だったから。
クラスも部活もきっちり人数分作った所為で、余ったチョコを二人でゲット。

二つのチョコは同じ味だったけど、どっちもめちゃめちゃ美味かった。

それがきっかけで、その頃から俺はよく手作りお菓子を作ってもらうようになって。
気付けば俺は、その女の子をいつも目で追うようになっていた。




「今年もクラスと部活、全員に配ってたなぁ。
 ご苦労なこった」

「お菓子作りって結構楽しくてね〜。
 特にブンちゃんは食べっぷりがいいから作り甲斐があって」



一年後、2年生のバレンタイン。

部活が終わって、陽が沈みかけた教室で帰り支度をしながら喋っていた。


一年経って、俺たちは仲良くなって、よく一緒に居た。
二人で帰ってゲーセン寄ったり、ファーストフード店でだべったり。

でもこのままイイ友達でいたら……男がすたる、よな?



「なぁ、

「ん、何?」

「配ってたやつって、全部義理チョコだよな?」

「そーだよ〜、だって彼氏いないし」



そりゃそうだ、彼氏が居たら俺とこんなに二人でいられねぇっつーの。



「……この義理チョコも美味いんだけどさ」

「お、さんきゅう〜」

「おう。 んでさ、俺……来年は、本命チョコが食べたいんだけど」



教室が、明るくなくて良かった。
まともに顔見ながらだったら、こんなこと言えないだろーし。




「………責任持って残さず食べるなら、いいよ?」

「……ッ!! おお、まかせろぃ!」



に見えないように、小さくガッツポーズをして。

その日から、俺たちは『友達』から『彼氏彼女』になった。






それから半年近く、もうすぐ高校生活最後の夏休みが近付いてきた。
テニス部の練習も合宿もあるし、…いや、は、女テニの部長だし。

お互い忙しいだろうけど、最後の夏休みなんだから。
海に泳ぎに行ったり、花火観に行ったりしたい。
もし時間があったら遊園地とかも行きたい。

定番だけど、憧れのデートコース。
半年ぐらい付き合ってるのに、デートらしいデートなんてしてなかったしなぁ。

毎日のように一緒に帰ってるし、部活とか自主練とかで土日も会ってるけど。


……考えてみると、何の進展もしてなくねーか…?




「………なーに考えてるぜよ?」

「どわあっっ!!」



部活が終わって着替えも終わって、エネルギー補給の為に座って菓子食って。
ボーっと考え事してたら、いきなり仁王のドアップ。

マジ、心臓に悪ぃ。



「な、ちょ、お前…ッ…仁王!
 なんだってんだよ、いきなりっ…びっくりすんだろ!?」

「締まりの無い顔してたきに、心配してやったんじゃ。
 ……どーせ、のことでも考えてたんだろ?」



にやにや笑ってる詐欺師、マジうぜぇ。
……いや、でもコイツ、恋愛事には強いんじゃねぇかな。




「………おい」

「なんじゃい」

「あの……か、カノジョ、とさ…」

「……カノジョと?」

「……………進展……とか、するには……」



言った瞬間、すっげぇ後悔した。

近所のおばちゃんとかが、『あらやだ』とか言うときみたいに。
キレイに指揃えて口に当てて、吹き出す代わりに『プリプリプリッ』とか言いやがった。



「何じゃコレ、新しいトレーニング方法か?
 爆笑を堪えながら喋って腹筋を鍛えようっちゅう」

「あー!! もういい! お前に訊いた俺がバカだったよっ」

「いやいや俺が悪かった、ちょっと笑い過ぎたのう。
 ほら見てみんしゃい、ジャッカルなんか笑い過ぎてハゲたぜよ」

「ジャッカルは元々ハゲだろ!
 つーか俺はマジメに訊いてんだぜ、いいから答えろよ、早く!」



まだ笑いが治まらないみたいで、口元を押さえながら小刻みに震えてる仁王。
恥ずかしいやらムカつくやらで一発殴ろうと思ったけど、どうやら答えてくれるらしい。



「そうだな……ムード作りが大切だと思うぜ」

「む、むーど……」

「そうそう、女子は雰囲気に呑まれやすいきに」

「………それ、騙してねーか?」

「当たり前じゃ、俺は王者立海の詐欺師ぜよ……プリッ」

「…………もういい」






教室に鞄を取りに行って、そのままを待つのが日課。
ここに来る前に仁王とバカな会話をした所為で、今日はやけに疲れた気分だけど。

仁王はアテにならない、俺はそう確信した。


って一つ賢くなったところで、問題が解決したワケじゃねーんだよなぁ…。

……そういえば、はマジで俺のこと好きなのか?
っていうか、ホントに付き合ってんだよな、俺たち?

もうちょっとで付き合って半年なのに、手も繋いでないっておかしくねぇ?




「ブンちゃん、お待たせー」

「お、おう……んじゃ、帰るか」

「うん」





いつもの帰り道、付き合う前から、付き合ってからもずっと二人で歩いた。

でも俺たちの距離は、ホントに変わってんのかなぁ…。




……あの、さ」

「ん、どうしたの? ブンちゃん」



ムード作りだとかして騙すのは性に合わないし、やっぱ真っ向から行くしかねぇだろぃ。

ああ、俺の天才的妙技が恋愛でも発動すればいいのに。




「手ぇ……繋がねぇ、かな」



うわ、声めっちゃ上擦った。
ふ、不自然じゃねぇかな、でも付き合ってたら手ぐらい繋ぐよな?!



「え……う、うん」



なんか、緊張しすぎて手の感覚がねぇ。
あーもったいない!って言ってる場合じゃねぇよ、黙っちまったじゃねーか。
ヤバイ、もしかして引かれたか?

でもこのくらいで引かれてたら、来年のバレンタインどころか夏休みデートも出来ない。
どうする、俺…!!




「な…なんか、さぁ」

「お、おう…」

「ちょっと、っていうか……かなり、照れるね」



一人別れの危機を感じてた俺は、次の瞬間にはどっかに飛んでた。

言いながら笑ったの顔は少し赤くて、今までに見たことない笑顔。
めちゃめちゃ可愛い、ぎゅーって抱きしめたい!



……そう思ったら、気が付いたらは俺の腕の中に居た。




「わっ……び、びっくりしたぁ」



道端だってのに、何やってんだ俺。
でも身体が勝手に動いちまったんだから、仕方ねーよな。

……誰も居なくて、良かった。

抱きしめて気が付いた、って案外小さかったんだ。
ふわふわして柔らかくて、なんかイイ匂いがする。
菓子なんかメじゃない、甘い香り。

ちょっと離れての顔を見ると、まだ赤い顔で上目遣いに俺を見てた。
可愛くてしょうがなくて、血が沸騰したみたいに体温が急上昇する。


ああ、ごめん、キスぐらいしてもいいか?





「……うわっ、押さないでくださいよっ」

「お前が前に出過ぎなんじゃ、こっちは全然見えないぜよ」

「お、おい……やっぱりやめた方がいいんじゃねぇか…?」



……………ん?
今の声は………。




「………ッ!!」



勢いよく身体を離して後ろを振り返ると、角の塀から見慣れた顔が覗いていた。



「………赤也、仁王、ジャッカル…ッ!
 それに柳に…柳生まで…ッ……何やってんだ、お前ら!!」

「いやぁ、仁王先輩が『面白いモンが見れるぜよ』っていうもんで…」

「相談された身としちゃあ、当然結果も見届けたいぜよ」

「お、俺はやめた方がいいって言ったんだが……」

「データ収集の為だ、当然だろう」

「君が紳士的かどうか、確かめに来たのですよ」



申し訳なさそうな顔をしてるのは、ジャッカルのみ。
あとの全員は、明らかに冷やかし、っていうか邪魔目的。

でもコレって、仁王に相談した俺の所為…かぁ…?



「あ〜〜〜……やっぱり仁王なんかに話すんじゃなかったぜ…」

「でもほらっ、幸村部長と真田副部長には言わないで来たんスよ?」

「……………分かった、怒らねーからそのままあの二人には言わないでくれぃ」

「了解ッス!」



「さーって……

「あ、はーい……なんでしょ、仁王くん」

「折角やからの……部長副部長以外の男子テニス部レギュラーで、
 家まで送ってやる」

「……あははっ、豪勢だねぇ。
 じゃ、お願いしま〜す」

「げっ……」

「なんだぁ? ちゃんとに許可は取ったぜよ」



重い溜息を吐いてを見ると、楽しいからいいよ、と小声で言ってくれた。
さっきまでなら、それじゃお前の優先順位は友達>彼氏かよ、とか思ったけど。

どうしてかねぇ、あんな風に笑った顔、初めて見た所為かもなぁ。

なんか安心したっつーか、邪魔されたのに気になんなくなってきちまった。





「ありがとね、みんなで送ってくれて」

「礼なら、今度何か奢るってのでどうッスかぁ?」

「じゃあ、今度みんなにお菓子作って持ってくるね」

「それは楽しみですね」

の作る菓子は評判がいいからな、真田と幸村も褒めていたぞ」

「わ、嬉しいな。 じゃあ真田くんと幸村くんの分も作ろ」

「俺も楽しみにしてるぜ、普段はブン太に見せびらかされてばっかりだからな」

「ハゲは食うな!とか言われとるしの。 俺は甘さ控えめがいいねぇ」

「あはは、わかってるって。 気合い入れて作るから、
 みんな楽しみにしててよ」



ったく、ここぞとばかりに全員で邪魔しやがって…。

こうなったら、意地でも夏休みは海も花火も遊園地も行ってやる。

また明日も言えないことが少し残念だったけど、な。
でも明日も会えるから、今日はおあずけだな。



に背を向けて、仲間たちより少し遅れて歩きながら。

名残のように振り向いた視線は、バッチリ、の視線と合った。



あ、今




『また明日ね』

『おう、また明日』




セカイが、繋がった。



声に出さずに、いつもの別れの挨拶をして。
また、背中を向けたけど。

いつもの寂しい距離は、感じない。






未完成のジグソーパズルみたいな、欠けたセカイでも。
二人のセカイが繋がれば、想いの欠片がセカイを満たしてゆく。

それでも見つからない欠片は、二人で探そう?


完成した二人のセカイは、きっとどんな絵よりも天才的。





だろぃ?










Back