教室に戻ると、なぜかそこは空気が変わっていた が幸村に告白されたなどと噂が広がり女子たちが騒いでいる 「スッゲーじゃん」 「赤也はともかく、あの幸村が本気でを好きとは思わんぜよ」 お前達は幸村が私に何を頼んだのか知らないのか? 無責任な事を言ってるんじゃない!と怒鳴りたかったが、これ以上テニス部員と関わりたくないので は仁王とブン太を横目でギロリと睨みつけると、そのまま何も言わずに教室を出た もう帰ろう。 の背中に脱力感が漂っていた #004:私がルールよ! これ以上災難に巻き込まれないうちにさっさと帰っちまおう。とは思った 自転車通学のは駐輪場へ立ち寄らなければならない しかも駐輪場は魔のテニスコートに隣接している だが有り難い事に女子たちが屯していたので、何とか気付かれずに通り抜けることが出来た。 いや、その筈だった しかし、またもやに災難が降りかかるのだった 「あ―っ、先輩見付けたッス」 「え゛っ…」 それは一瞬の出来事。背後からいきなり抱きつかれ、は咄嗟にそれを突き飛ばした しかし、それはめげる事なくまるで子犬のようにじゃれついてきた 「離せ、悪魔っ子」 「悪魔じゃないっす。切原赤也ッス」 「名前なんてどーでもいい!離れろっつーの!」 「離せ」「イヤっす」を幾度となく繰り返し、がほとほと自分の運命を呪っていると 頭上から鈍い音が響いた 「いいかげんにせんか!バカ者!!」 「いって〜〜〜」 足元で頭を抱えながら蹲る赤也から視線を上げていくと、鬼の形相をした男が立っていた 男は微かに顔の筋肉を緩めると、その視線をに移した 「…、すまんが一緒に来てもらおうか」 「は?」 何なんだ?このオッサンは…と、男に不愉快を感じた時、赤也の口から彼が副部長という言葉が洩れた 副部長だって?それじゃ、このオッサンは高校生? うっそ〜〜!! って言うか…この男どこかで見た気が… そう思いながらも、男の醸し出す威圧感にジリジリと後退して行くと、男はいきなりの腕を掴んだ 「あ――っ、なに先輩に触ってんすか真田副部長!いやらしいッス」 そうそう、いやらしいッス。じゃなくて思い出した。 確か幸村に言われてドリンクを運んでくれたヤツだ 「触って…?バ、バ、バカ者…さ、触っているわけではないわ――っ!」 言葉とは裏腹に高校生の風貌とは程遠い真田という男は被っている帽子のつばを下げ、 極力顔が見えないように俯き加減でコホンと咳払いを一つした 照れているのか?不気味だ。 「、走るぞ」 「え!?えぇええ―――っ!!!」 真田が有無を言わさずの腕を引っ張って走り出すとフェンス越しに様子を見守っていた女子達の悲鳴に近い声が響き、 宛ら自分は犯罪者のようだとは思った もう、どうとでもして…はそんな心境だった 背後での名を呼ぶ悪魔っ子赤也の声が虚しく耳に響いていた テニスコートの真ん中を男子と手を繋いで(実際は繋いでいないが)走りぬける様は 思いの外劇的で快感ではあるが、相手を選ぶ権利がないのが残念だ むしろ、向こうもそう思っているだろうが… 真田と走り抜けて到着した場所は、テニス部と書かれた建物だった。 真田に促されて部屋に入ると意外にも中は広く、流石は天下の立海テニス部と言われるだけはある。 冷暖房は勿論、シャワー室まで完備されていて“どんだけだよ”と思わず突っ込みたくなる 辺りを見回しながら奥へ足を進めて行くと、ミーティングを開く為なのだろうか、大きなテーブルと 壁にはホワイトボードが設置されていた 「ここ部室だよね?」と思わず溜息が零れる。 「気に入ったかい?」 「へ?」 ちらりと視界に入った影に目を向けると、そこには幸村が悠然と座っていた 「やあ、よく来てくれたね」 「来たんじゃなくて連れて来られたんだけど」 「フフッ、ちょっと強引だったかな?」 「ちょっとじゃなくて…かなりね」 幸村は椅子を指し示してに座るように促すと、は深く腰掛け、足を組んだ その仕草はまるでどこぞの女王様のようで、真田は怪訝そうに眉を潜めた 「どーでもいいけどさ、まだ諦めてないの?」 「俺はね、テニス部のマネージャーは君しかいないと思っているんだ」 何を根拠にそんな事を言うのだろうとがハーッと大きな溜息を突くと、真田が口を挟んで来た 「幸村…、本気か?俺は反対だ。テニス部に女子のマネージャーなんていらん。」 「ほら、副部長さんが反対してるんだから諦めたら?」 面倒くさい話もこれで終わると思い、が席を立とうとすると幸村が強い口調で言い放った 「弦一郎、少し黙っていてくれないか?」 幸村の冷たい言い方に真田は言葉を詰まらせると、拳を握り締めながら俯いた やだ、ウケる どう見ても真田の方が強そうに見えるのに…もしかして幸村が怖い? 「俺は部長だからね、テニス部の先を見据えてに頼んでいるんだよ」 「ふぅん…で、もし私がマネージャーになったらどんなメリットがあるの?」 「メリットかい?…そうだな…、君の好きなようにしていいよ」 「好きなようにねぇ」 は大きな身体を縮めている真田を見ながらクスクスと笑った 常勝立海テニス部は伝統あるクラブだ。 ファンクラブも出来るほど女子にも人気がある。 マネージャーになりたい女子も少なくはないはず。 「私をマネージャーにしたい本当の理由は?」 は頬杖をつきながら面白そうに幸村に訊ねると、彼は「君の強さ」と涼しい笑顔を返した ワクワクするこの気持ちは何だろう 面倒くさい事は大嫌いだし、関わりたくない気持ちもあるけど、好奇心が騒ぎ出した 「そうね…、マネージャーになってやってもいいけど…」 「本当かい?」 「その代わり!」 「何だい?」 「私がマネージャーになるからには、私がルールよ」 「勿論、構わないよ」 フフッと笑い合うと幸村。 「ゆ、幸村…」と、か細い声で呟く真田の声は二人には届いていなかった BACK TOP NEXT |