先輩、惚れたっス」



昼休み、突然教室にやって来た悪魔な後輩に告白された

これってどうよ?










#003:すわっ!告白ですか―っ!?










頬に似つかわしくない大きな絆創膏。昨日の戦いの傷跡だ。

教室に入り席に着くとクラスメイトがの周りに群がって来る
「昨日の戦い見たわよ〜」「まったく、傷が残ったらどーすんの?」「懲りないヤツ」などなど。
傍観者はいろいろ言ってくるものだ。だが、それも有り難い言葉と一応受け取っておく

しかし、担任の教師が呆れた溜息を吐くのは納得できない。
元々の元凶はアンタだろーが!!

教師を睨みながらも散っていくクラスメートを尻目に溜息を吐いた

女だてらに男子を蹴り飛ばすなんていいことじゃないって分かってるけど
性分なんだから仕方ないじゃない?

ま、多少は反省してるけど後悔はしてない。


などと、その後は自己防衛的な事を思いながら退屈な授業を受けていた

しかし、事件は昼休みに突然起こった


昨日の疲労感が残っている所為か昼食を外で食べる気も起きず、教室で弁当を広げていると
突然けたたましい音を立ててドアが開いたかと思うと一人の男子が飛び込んで来た




先輩居るっスか―?」




教室中に響く大声で叫びながら目当てのを見付けようとキョロキョロしている
直感的にマズイと思ったは咄嗟に机に突っ伏して顔を隠した。

アイツ、昨日の悪魔じゃない?何しに来たのよ
まさかリベンジに来たとか? う〜、面倒くさい。知らん顔しとこう…

しかし、敵もさるもの。鼻の利く犬みたいにすぐさまを見付けると嬉しそうに走り寄って来た




「見付けたッス」

「な、なによ…また蹴られたいの?」

「んふふ〜♪」




ぞわっとした。悪魔はキラキラと瞳を輝かせながら気色の悪い笑い方をする
何だか嫌な予感がするし、こういう空気は苦手だ。出来るなら今すぐ逃げ出したい。

そう思っているのに何故かこの悪魔から目が離せないでいると、
悪魔はとんでもない事を口走った




先輩…オレ、先輩に惚れたっス」

「は?」

「オレの彼女になって欲しいッス」

「アンタ…頭おかしいんじゃない?」

「やだなぁ先輩、照れなくてもいいッス」




おいおい、告白ですか――?

自慢じゃないが未だかつて告白なんてものは受けた事がないぞ。
こういう時はどんな顔をしてどんな言葉を掛ければいいんだ?




「あれ?赤也に先を越されちゃったかな?」




一瞬にして皆の視線が声のする方向に注がれる。
声の主はにっこりと天使の頬笑みを携えながらの席まで近付いてきた


「赤也…こんな所で何をしているんだい?練習を始めるように言ってなかったかな?」

「んげっ……ゆ、幸村部長…」

「校庭30周を追加して欲しいのかい?」




まさに鶴の一声?
天使の笑顔が黒い微笑みに変わったかと思うと切原赤也はブルッと身体を振るわせ
物凄い勢いで教室を飛び出して行った




…、赤也が失礼をしたね」

「……」

「実は俺も君に話があるんだけど、少し付き合ってもらえるかい?」




今度は何?テニス部と関わると碌な事がない。これ以上関わりたくないと
「用があるならここで話せば?」と素っ気なく突き放すように言った

すると、幸村は辺りをゆっくりと見回し「ちょっと人が多いかな」と小さく笑う


当たり前だろ?ここは教室で美人と誉れの高いアンタが私に用があるなんて
そりゃあ皆の視線も突き刺さる筈よ

それなのに「俺としては二人きりがいいな」などと…
絶対コイツ、わざとそんな言い方をしているんだ




「じゃあ行こうか?二人きりになれる所に。」




気が付くと、負けず嫌いの性格が顔を出してそんな事を口走っていた








そして今、私と幸村は屋上でフェンス越しに真下にあるテニスコートを見下ろしていた




「私に話って?」

「話?……あぁ、そうだったね」

「なに?言いにくい事?もしかして幸村も告白ってやつ?」

「赤也のようにかい?あははは、それはないよ」




あっさり否定しやがった。
こっちも冗談で言っただけなのに、こうも否定されると複雑な気分だわ。




「君に興味があるのは事実だけどね」

「私の何に興味を?」

「う〜ん…男らしいところ…かな?」

「男…らしい…?」

「フフフ、冗談だけどね」




どうやら私にも理性があったらしい。普段の私ならきっとブッ飛ばしていたに違いない。




「私も暇じゃないんだけど?くだらない冗談を聞くくらいなら帰るわよ」




幸村は「怒っちゃった?」なんて小さく笑って、それから「ごめんね」とフワッと頭を撫でた
普通の女の子ならここでドキッとする所なんだろうけど、私はゾワッとした

沸々と泡が立つように鳥肌が立った




「どうかしたのかい?」

「別に…、それより話があるなら早くしてくれない?」

「そうだね」




幸村はここから小さく見えるテニス部の練習を楽しそうに見下ろし、
それからゆっくりと視線をに移した




…、君はアイツらをどう思う?」

「アイツら?」




頷きながら指を指す方向はテニスコート。




「テニス部の連中のこと?」

「そうだよ」




どう思う?なんて聞かれても、テニス部の連中で知っているのは
仁王とブン太、悪魔の子、そしてハゲとここに居る幸村しか知らないし…




「どう?」

「どうって……曲者…?」

「曲者?」

「アンタを含めて曲者ばっかりよね」




幸村は何をツボッたのか彼には似つかわしくないほど大きな声で笑い出した
がその理由を聞くと、幸村は曲者の中に自分も含まれているのが面白かったらしい。

大丈夫か?幸村よ。アンタが一番曲者だから…




「それがなんな訳?」とは呆れたように溜息を吐くと、幸村はフフフと意味深な笑みを浮かべた




「君の言う通り…確かに癖のある連中ばかりなんだよ。俺も少しばかり手を焼いていてね」

「アンタが?その冗談笑えないけど?」




幸村は「ひどいなぁ」と苦笑をして、それから咳払いを一つした
やっと本題に入るのかとは少しだけ構えた

しかし、それも虚しく幸村の話は想定外の事だった





…君さ、その曲者達の面倒を見る気はないかい?」

「へ?面倒を見る?…それってどういう意味?」

「うん、テニス部のマネージャーにならない?」

「断る!」

「ははは…即答かい?考えてみる余地もないのかな?」

「ない!話はそれだけ?だったら終わったよね?」




は軽く手を振って、幸村に背中を向けた


まったく悪魔っ子の告白といい、幸村の話といい面倒くさい奴らだ
この私にテニス部のマネージャーをやれと?バカバカしい。

テニス部の顧問の担任、仁王とブン太。それにハゲ。それから悪魔っ子に幸村。
アイツらを見ているだけで他の部員の想像もつくってもんよね。


テニス部に関わると碌な事がないと身を持って体験したんだから!


絶対アイツらとは今後一切関わりを持たない

そう固く決心しては教室に戻るのだった















BACK TOP NEXT